「緑の大地を貫く赤絨毯の道」に魅せられて飛び出した過酷な4000㎞の旅も、懸案となっていた検問所の通過も無事クリヤーし一安心としたいところだが、まだ国境にも届いていない現状ではマナウスに近づいたと実感できるものではない。
これから先国境を通過し、往路で苦労したカラカライのフェリーで無事川を渡らなければならず、少しでもトラブルが発生すればマナウスにつくことが大幅に遅れてしまうといった時間との戦いでもあるのです。
途中インディオの居住区も通り抜けなければならず、わくわくの反面ドキドキ感が半端ないのです。
Pousada Caracalai Santa Elena
マナウスへの帰路
国境の街サンタエレナへ
機関銃の銃口の恐ろしさから解放され、再び我が愛車とともに大平原のなかの一本道をただひたすら走り始めました。
相変わらず目にするものはただだだっ広いだけの草原と、其の中にぽつんぽつんと並ぶやしの木だけで馬も牛も見る事なくなんと殺風景な風景なのだろう。
遥かかなたには煙が上がっているのが見えるから多分人の生活はあるのだろうがそれすらも感じることが難しい。
それにしてもこの風景はいつもジャングルに慣れ親しんでいる目からすればやっぱり別世界。
今日もこの道で行き交う車はほとんどない、どうしてこんなに素敵な道で行き交う車がこれほどまでに少ないのか不思議と感じるばかりです。
遠くにはギアナ高地特有のテーブルマウンテンが相変わらずどっしりと鎮座しています。
いつかあのテーブルマウンテンに近づきたい、傍でゆっくりと眺めてみたいという想いを強く持ちながら走った事を思い出しています。
あの高いテーブルマウンテンからは世界一落差の大きな滝「エンジェルフォール」が落ちているのです。
車はやがてサンタエレナの町に入ってきました。
車のガソリンゲージはまだ中ほどであったものの、ここでガソリンを補給しておかなければならない理由があります。
この先のジャングル走行を考えるとやはりここで入れておかなければ成らないのです。
しかし相変わらずここで買うガソリンは高い、内陸の値段とあまりにも違いすぎるではないかと憤慨しながらも、仕方なくいわれた通り支払いをして出発しました。
ここのサンタエレナはブラジルと比べるといろいろなものが安いという。
すると相棒が何を思ったか突然タイヤを買って帰ると言い出したのです。
確かに道路脇にはタイヤショップが目立つ。
其のなかの一軒に立ち寄り、中を物色していたが、どうも気に入ったものが見つからないらしい。
結局タイヤは買うのをあきらめて、町の中ほどにあった小さな商店街のあるところに入りお土産を捜す事にしました。
小さな店内には処狭しと商品が置かれているが、どれを見てもどうもうさんくさいのが多い。
よく見てみれば確かに中にはまともなものもあるのだが！
一軒のお店でアテンドしてくれた若い娘さんが”どこからきたのか”と聞いてきました。
マナウスからはるばる来たぜサンタエレナにと今までの中身を教えてあげると興味深そうに聞いていたが、突然一人が”私マナウスで働いていたの”と話し始めたのです。
聞けばデストリート（工業団地）で工員としてしばらく働いた事があるというのです。
今でも友達が働いているといいマナウスにもたくさん友達がいるのだという。
何処のエンプレーザ（会社）かは教えてもらえませんでしたが、何処にいっても世の中狭いものだなと感じた次第です。
そうこうしているうちに日はどっぷりと暮れて来ました。
未だこれからボアビスタまで約２時間車を走らせなければならないのです。
ここでゆっくり遊んでいるわけにもいかず、チャオ、チャオ（バイバイ）と店を出て再び車を走らせました。
時間は既に夜の７時になろうとしていたのです。
ブラジル側国境での出来事
いくつかの角を曲がってどうにかサンタエレナの町を出ることができました。
しばらく走るとまもなくブラジルーヴェネズエラの国境が見えてきました。
ベネズエラ側でいろいろなことを体験し国境の審査も無事通過して、再びブラジル側に戻ってきたのです。
ブラジル側の国境も難なく通過できると車を出そうとしたその瞬間、突然ブラジル側国境の検査官が我々の車を止めさせ、”すぐに車外にでなさい”と指示をしてきたのです。
何事かと怪訝な顔でやむなく指示に従ったが、最初は一人だけ降りればいいのだと思い助手席側は車内に残っていると ”おまえもだ”といわれ、二人とも車外に出されてしまったのです。
何も思い当たる節がないなと検査官を見ながら考えていたら、検査官がやおらスプレーを出して愛車内の消毒を始めたのです。
特に車内の隅々まで中に身を乗り入れて撒いているではありませんか。
これには我々ただ唖然とするばかりでした。
時間にすれば僅か２－３分だったのであろうが消毒作業が終わるともう良いよといってくれたのです。
おもむろに乗り込むが車の中は今の消毒液のにおいが凄い、思わず鼻をつまみたくなってしまいました。
それにしてもこのにおいはなんとなく懐かしい感じがする、そうだ子どもの頃によく消毒に使っていたあのＤＤＴと同じにおいだったのです。
暫く暑いのを我慢して窓を開けたまま走ったのは言うまでもないが、それにしてもあの臭いはなかなか抜けず苦慮した。
気を取り直して走る事しばらく、闇の先の方に小さな明かりが見えてきました。
なんとなく食事ができそうな雰囲気を感じとり、それと同時に腹が減っている事に気づく、今回の旅は走ることか食べることしか考えられないという残念な旅でもあったのです。
そこで其の明かりを頼りにそこに車を滑り込ませました。
店内では地域の人であろう５－６人のグループが食事中、店の形態はなんとなくランショネッチ（軽食屋）という雰囲気でした。
おじさんにビールをオーダー、しばらくして出てきたビールがなんと”ブラマ”だったのです。
そう、ポラールではなく飲みなれたブラマだったので懐かしく感じられました。
たかだか1週間ほどの時間だったのだがずいぶんと長い間ブラマに遭えていなかったような心境だったのです。
ふと気が付いた、そうここは既にブラジルだったのだと・・・・・。
無事にブラジルまで戻ってこられたのだ、何事もなくここまで来られた事に少しだけ感謝の気持ちが湧いてきていました。
それでもまだ先は長い、ここで安心している場合ではないと心でつぶやいていました・・・
ビールを飲みながら食べ物を探してみた。
何がおいしいかと聞くがどっちにしても肉くらいしかない、取敢えずはブラジル風焼き肉を頼んだのでした。
ほどなくしておじさんが運んできたのは何の事はない、いつものブラジル料理でした。
しばらくぶりにたべたブラジル料理はやはり慣れ親しんだ味でおいしい。
ボアビスタの宿探し
ここから先３０分も走ればボアビスタに着く、食事を済ませ落ち着いた所でもうひと踏ん張りと車を走らせました。
一路ボアビスタに向け、もうすっかり闇の中となった道をひた走りほどなくして視界の先に明かりが点々と見え始めたことを確認しました。
ボアビスタの町に近づいてきたのだと実感しました。
相棒から今夜の宿はこの前のホテルとは別のホテルを探そうと提案してきたのです。
確かにこの前のホテルはなんとなく古臭いし、探せばもう少しましなホテルがあるのではと考えていた事でもあり、すぐに其の提案に乗る事にして早速ホテル探しを始めました。
初めての町だし元々予約を入れておいたホテルをすっぽかして別のホテルを捜すわけでなかなか見つかりません。
町行く人に尋ねながら行き着いたホテルがほぼ町の中央部の大きなロータリーの一角にありました。
廻りは白く塗られ玄関脇には大きなサボテンの柱がそびえたつ。
見た所こぎれいな感じでこの前のホテルに比べれば快適そうだと早速玄関を入ってレセプションで宿泊の手続きをした。
幸いな事に部屋は空いており、すぐに部屋に案内してもらう事ができました。
部屋に入って早速シャワーを浴びるべく準備をしようとしていたら突然目の前から明かりが消えました。
停電になったのです。
これには困った。
取敢えずわけも分からないのでレセプションに電話をかけました。
しばらく待つとろうそくを持ったおばさんがやってきて、部屋にろうそくの明かりを置いていってくれました。
これでやっとシャワーを浴びる事ができたのです。
シャワーを浴びて落ち着いた所で、冷蔵庫の中身が気になりなんとなく冷蔵庫を開けてみるとちゃんとビールやミネラルウオーターや清涼飲料水が冷えていたのです。
もっとも停電下の冷蔵庫ですから停電前に冷やされていた余韻が残っているということですが・・・・
やっぱり風呂上がりに一杯とばかりにビールを取り出し、一人で飲むのはチョットさみしいが夜も遅く、明日も早いので相棒を誘う事なく一人ビールを飲みながらテレビに見入ったのです。
そのうちにいつのまにか寝てしまったようで、気がついて起きた時は既に朝で床には2~3個のビール缶が転がっていました。
朝食は階下のレストランへ出向いて、いつものブラジル風朝食の風景に行き会う。
但しならべてある食べ物はこの前泊まったホテルのそれとは随分違った感じがしたものである。
今日はいよいよ７日めの朝、これから先はまた赤の大地と格闘しなければならないのかと思うと少し憂鬱になるが、そんな事で悩んでいたらマナウスにはたどりつけないもう休暇は今日を含め３日しかないのだ。
元々予定では休みを１日残してマナウスに戻る計画にしていたし、少しでも余裕を持って着くためには前へ前へと進まなければならないのであるから、これから先の過酷な状況を目の前にお互い気を引き締めた。
カラカライのフェリー
これから約２００ｋｍは未だ舗装区間であるが、あのカラカライまではまだ快適に走れるはず。
案の定快適な走りは約束されました。
予定通りカラカライの船着き場についた我らの目の前には既にフェリー乗船を待つ車が列を成して並んでいたのです。
出発予定時刻を確認してみると予定通りとのこと・・・しばし待つことに。
今回は往路でのあの苦労をしなくて済んだことが何よりも救いだったと実感しました。
それにしても往路の苦労を考えれば、この復路は今の所快適そのものでした。
ほどなくしてフェリーに乗船開始、船着き場を離れて１０分ほどで着いてしまう川幅なのです。
無事フェリーを下船しいよいよ未舗装区間530㎞の始まりで緑のなかの赤絨毯を走る旅が再び始まることになりました。
既に時間は昼近く、このままマナウスまで帰るのには未だ１０時間以上も走らなければならない状況で、どちらからともなく今日は途中でもう一泊しようと言い出す羽目になったのでした。
もうちょっと走れば往路の時、ボアビスタの軍隊に出会ったあの部落に到着する予定です。
確かあそこには簡易宿泊所があったはずといいながら、まずそこまでひたすら走り続ける事にしました。
ジャングルの簡易宿泊所
それにしても穴ぼこだらけの赤絨毯の道はいつまで立っても同じ顔を見せており、走りにくい事このうえない状況でありました。
しばらく走りつづけ時刻が午後４時を廻った頃、あの小さな部落に着きました。
ちいさなランショネッチでチョット腹ごしらえをするがやっぱりビールは欠かせない。
そこのおやじさんに泊まれる所はあるかとたずねると２軒あると教えてくれました。
程度の良いのはこの近くにある宿泊所だと教えてくれたのでそこを捜しあてて入ってみることに。。
そこで部屋はあるかと聞くと、人の良さそうなおばさんが”クーラー付きは１５レアイス、クーラー無しは９レアイスだ”といってきました。
それはもちろんクーラー付きにしてくれと２部屋クーラー付きをお願いしたのでした。
部屋に案内してくれたのですが、これが４畳半くらいの小さな部屋にシングルベッドが一つ置いてあるだけ、なんとも殺風景な部屋で、床はコンクリートそのものでした。
シングルベッドと言えば聞こえは良いが、病院にあるようなあのシングルベッドといえばなんとなく想像して頂けるのではないだろうか
部屋の片隅にはシャワーと便座が並ぶ、なんとなく独房という感じがしないでもない。
それでも疲れた体を横たえるのには充分でありました。
廻りには別段何もなく、それでもおくのほうにはディスコがあるらしく夕方になってぞろぞろと歩いていく人たちが目立ちました。
取敢えず落ち着いた所で食事にありつこうと奥の食堂に、何処で食べても代わり栄えのしないブラジル料理を食べて腹を落ち着かせました。
そのまま何もする事がないので、あの部屋に戻りテレビを見る事もなく、本を持っていくのも忘れたため本を読む事もなく、ここでもいつのまにか眠りに就いたのでした。
それにしても何もしない事の退屈さはやっぱり耐え難いと感じたのです。
朝の光を感じて目を覚ますとなんとなく良い臭いがしてくるではないか、、
ドアを開けてみると食堂のほうからにおってくる、其の臭いは焼き立てのパンの臭いでした。
ここの朝食は焼き立てのパンとコーヒーという事で早速頬張る事に、食べてみるとやはり焼き立てだけあって美味い。
コッペパンのようなものであったが、ハムを挟んでおいしさを満喫しました。
おやじさんはコカ茶のようなものを特製のカップに入れて飲んでいる、非常にゆったりと時間が流れている感じがとてもいい。
食事を終えて部屋に戻ろうとしたら、今度は果物の臭いが鼻を突いてきた。
よく見ると夕べは暗くてわからなかったが、カカオやジャッカなどの果物が庭に並ぶ木の上についていたのです。
これらを眺めながら食事の後のひとときを楽しんだ後、支払いを終えて再び赤い絨毯の道へと走り出しました。
残り約600㎞先のマナウスに思いを馳せながら、これから起こるであろうアクシデントは未だ知る由もなく・・・
Pousada Caracalai Santa Elenaまとめ
「緑の大地を貫く赤絨毯の道」という響きに魅せられ、アマゾンのジャングルを貫く1本の道を走破してみたいと始まった8日間に亘る4000㎞のドライブ旅も、過酷な状況を繰り返しながらも、無事に残り約600㎞程迄戻ってきました。
4000㎞から比べれば残り僅かな距離ではあるがその過酷さはまだまだ続くわけで、マナウスの地を踏んで初めて無事に帰ってきたと言える過酷さであることをお互い再認識したのです。
残りの大部分を占めるジャングル内の未舗装区間は、ひとたび降雨があればその表情を一変させます。
往路では雨の影響はさほど大きくなかったが、この1週間の間に降雨があった模様でこの先どのような表情を見せてくれるのかと恐怖を感じずにはいられません。
降雨後の未舗装区間も無事に通過できることを祈りながら気を引き締めております。
次回いよいよマナウスに帰還するまでを綴った最終回となります。
引き続きお楽しみください。
最後までお読みいただきありがとうございます。